外交円卓懇談会

第145回外交円卓懇談会
「AIIBの現状と将来の展望」メモ
マイク・モチヅキ・ジョージ・ワシントン大学教授

2018年6月12日
公益財団法人日本国際フォーラム
グローバル・フォーラム
東アジア共同体評議会
事務局

 日本国際フォーラム等3団体の共催する第145回外交円卓懇談会は、ヨアキム・フォン・アムスベルク(Joachim von AMSBERG)アジアインフラ投資銀行副総裁を講師に迎え、「AIIBの現状と将来の展望」と題して、下記1.~5.の要領で開催されたところ、その冒頭講話の概要は下記6.のとおりであった。

1.日 時:2018年6月12日(火)15:00~16:30
2.場 所:日本国際フォーラム会議室
3.テーマ:「AIIBの現状と将来の展望」
4.報告者:ヨアキム・フォン・アムスベルク(Joachim von AMSBERG)アジアインフラ投資銀行副総裁
5.出席者:26名
6.講師講話概要
 ヨアキム・フォン・アムスベルク・アジアインフラ投資銀行副総裁の講話の概要は次の通り。その後、出席者との間で活発な質疑応答が行われたが、議論についてはオフレコを前提としている当懇談会の性格上、これ以上の詳細は割愛する。

(1) 国際開発金融機関(MDBs)としての設立理念

 アジアインフラ投資銀行(AIIB)は、アジアのインフラ整備と金融における諸課題に対応するために設立された。東アジアは、経済統合が進展しているとはいえ、まだまだインフラ整備需要の可能性が大きい地域である。アジアでは、1週間当たりで約150万人が都市に流入しており、今後2050年までの間、1か月あたりで香港の人口に匹敵する人口が移動するとの予測がされている。このため、都市化、環境問題、科学技術、交通等、投資需要が幅広く見込まれている。しかしながら、こうした大きな需要があるにもかかわらず、法整備の遅れなどのために、現状では需要と供給の両者がうまくかみ合っていないというパラドックスが生まれている。こうしたパラドックスの解消のため、AIIBは需要と供給の間を取り持ち、開発事業の推進を進め、両者から信頼されるパートナーとしての役目を担おうとしている。一般的に大規模開発プロジェクトでは、国際開発金融機関(MDBs)が入り組んでいる当事者間をつなげる役割を担うことが重要である。実際、多くのMDBsがこれまで、開発事業に資金提供を行い、需要に応じて事業推進の技術を提供・援助し、途上国の開発需要と援助する供給側の間を取り持ってきた。AIIBは、今日のアジアにおける巨大なインフラ開発需要に鑑み、従来MDBsが果たしてきた役割を担おうとしているのである。

(2)国際開発金融機関(MDBs)としての経営基準

 2013年に、習近平・中国国家主席よりAIIB設立および「一帯一路」構想が発表された際、各国からは歓迎と懐疑の反応があった。2015年前期には多くのヨーロッパ諸国がAIIB加盟に向けた交渉に入り、2つの基本的合意に至った。一つは、透明性の高い多国籍経営体制の金融機関とすること、つまり「中国銀行」であってはならないということである。AIIBの出資比率は、中国が25%超、その他アジア諸国が50%、その他の国が25%であり、中国は一国として最大ではあるが多数ではなく、支配的でもない。また、中国には意思決定に際し拒否権があるが、適用されるのは例えば重要政策の変更や方針、開発銀行としての意義などで、運営上の決定の妨害や、特定事業の強制はできないことになっている。いま一つは、事業基準についてである。欧州はAIIBの関わる事業が国際的な環境、社会配慮の基準を満たす必要があると求め、中国もこれに合意した。
 2016年1月17日の発足し以来、AIIBは、加盟国の金融専門家集団によって、開発銀行としての体制を構築してきた。現在のところ、AIIBの半数以上の出資事業は、アジア開発銀行、世界銀行や国際通貨基金(IMF)等、既存の他開発金融機関との共同プロジェクトである。質の高い開発事業を通して経験豊富な他機関と協働することで、AIIBの信用性が高まっている。同時に、協働する他の開発金融機関にとっても、人的・経済的補助が得られるほか、独自では手の回らなかった最優先でない開発途上国への事業を進められる可能性がある。2017年、AIIBは国際格付機関からAAAの評価を受け、以来この格付け維持のため、多様な加盟国からより良い経営を継続するために監督を受けている。取り扱っている出資事業は、開発援助需要の多いエネルギー関連と交通分野のものが多いが、他にガスパイプラインから街灯整備まで幅広く行っている。

(3)優先事業と組織としての特徴

 AIIBには、経営方針上3つの優先事業がある。一つ目は、持続可能なインフラストラクチャーに関連する事業である。パリ協定で合意された通り、国際社会においては持続可能な環境保護が重要であることから、低炭素社会へと移行していくのに適当と考えられる事業を優先している。二つ目は、越境的連結性に関連する事業である。AIIBは多国籍開発銀行として、国境を越えてつながる事業が多いため、特に交通やエネルギー関連の事業を優先している。三つ目は、民間資本の動員が必要な事業である。地域の開発援助需要に応えるにはAIIBの資本力だけでは限界があり、市場を形成し民間資本の投資を促した方が効率がよいため、その関連の事業を優先している。
 AIIBは他開発銀とどう違うのだろうか。金立群AIIB総裁は、頻繁に「グリーン、クリーン、リーン」(green, clean, lean)の理念を提唱している。環境配慮(グリーン)と反汚職(クリーン)は他機関でも同じく重視しているが、無駄を省くこと(リーン)を重視していることがAIIBの特徴と言えよう。今後AIIBは、組織としてどのような成長を遂げることができるのか。AIIBは、その名称のとおり分野に特化した組織であることから、既存の他開発機関と事業が重複しないように協働か差別化をしないと肥大化する恐れがある。一歩ずつ足場を固めながら組織構成を形成していくことが重要である。また、中国は(長期的に)自国の国際的な信用性、主導性を高めることを非常に重視しており、多国籍機関としてAIIB内部の意思決定過程を尊重している。そうした目的に則り、AIIBは最適な人材を加盟国以外の国からも広く募集している。こうした運営を行っていくことで、AIIBを通じて中国が環境配慮、反汚職に関与させることになるし、AIIBの管理職は組織として、開発銀行としての運営に集中できると考えている。

(文責在事務局)