日米欧は中露に対して共同対処行動はできるのか?
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日米欧は中露に対して共同対処行動はできるのか?   
投稿者:河村 洋 (東京都・男性・外交評論家・50-59歳) [投稿履歴]
投稿日時:2018-05-10 18:48 [修正][削除]
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No.4150
 価値観本位の国際政治が地政学本位に移行すると、世界はこれまで以上に不安定になる。冷戦期には自由民主主義諸国の団結は比較的強かったが、ロシアと中国を相手にした新冷戦では、民主主義諸国の同盟は必ずしも連帯行動がとれていない。これはヨーロッパ人とアメリカ人が「日本人は中国に気を取られてロシアには目が向いていない」と言う不満によく表れている。他方、日本人はしばしば「ヨーロッパ人とアメリカ人は一帯一路構想の裏にある中国の危険な野望に対する意識が低い」と不満を漏らす。歴史的にも似たような例があり、それは第二次世界大戦におけるイギリスと英連邦の白人自治領の関係である。リビジョニスト・パワーであるナチス・ドイツとロシア、そして日帝と中国の間には地政学的なアナロジーがある。同様に当時の英本国をNATO諸国に、オーストラリア自治領を現在の日本に見立てることができる。戦前の英連邦にはBritishの名が冠せられていたように、今日の英連邦よりもイギリス帝国主義と緊密な関係にあった。第一次世界大戦を通じてイギリスの白人自治領は国際舞台でより重要なアクターとなり、内政においても外交においても自治を認められるようになった。他方、アングロ・サクソンの社会文化的伝統とイギリス王冠への忠誠に基づくイギリス本国との特別な絆は維持して帝国の強化に寄与することとなった。しかし第二次世界大戦が勃発して地政学の重要性が増すと、英連邦の求心力が試されることになった。イギリスはドイツの打倒に優先順位を置いたが、オーストラリアとニュージーランドのような太平洋の自治領は特にシンガポール陥落以後に日本の脅威にさらされることになった。ダーウィンのように日本軍の空襲を何度も受ける都市もあった。他の自治領では南アフリカでアフリカーナがイギリス支配に抵抗さえ示し、ドイツとの連携まで模索した。歴史が示すところは地政学による世界秩序は脆弱であり、だからこそ自由民主主義諸国の同盟を再強化してリビジョニスト・パワーが世界各地で突きつける挑戦に対処してゆくことが肝要なのである。

 現在の安全保障から見ると、NATO諸国と日本の優先順位は違う。しかしながらナチス・ドイツと日帝とは異なり、ロシアと中国は極東では長い国境で接するばかりか中央アジアでも優位を競うように、互いに潜在的な地政学上の競合国同士でもある。実際に冷戦期にはどちらもアメリカと対立していたにもかかわらず、東ではウスリー川中洲のダマンスキー島、西では新疆ウイグル自治区のテレクチで両国の領土紛争となった。両国の相互不信は拭い去られていない。よって日本の政策形成者は極東での中露競合にNATO諸国の注意を引きつけ、大西洋と太平洋の民主主義諸国の間での戦略的な利益と視野の食い違いを埋める必要がある。ヨーロッパ人とアメリカ人の方が日本人よりもロシアに関する問題意識が高いことは間違いないが、彼らの関心は圧倒的にヨーロッパと中東でのロシアの行動に向かっている。特にバルト海地域での軍事的脅威、クリミアの併合、シリアでのアサド政権支援、イランとの緊密な連携などが欧米にとっての懸念事項である。しかしロシアのこうした行動は東アジアでの行動と分離しているわけではなく、互いに関連し合っている。

 大西洋と太平洋の民主主義諸国の戦略的立場の違いはさて置き、中露の地政学的な連携と競合について述べたい。ロシアと中国は欧米優位に対抗して世界の多極化の追求という利害を共有しているが、極東と中央アジアをめぐる両国の地政学戦略的な目的は必ずしも一致しているわけではない。グローバルな観点から言えば、ロシアはリベラルな世界秩序の転覆を望む一方で、中国はWTO加盟や製造業で西側企業に無数の下請け企業の存在もあり、すでにグローバル経済に組み込まれている。そうした中でロシアは中央アジアと極東での中国経済的プレゼンスの増大を懸念している。中央アジアでは、中国は一帯一路構想でロシアの利益も受容している。しかし中央アジアおよびアフガニスタンの不安定化が進むに及んで中国がこの地域の安全保障への関与を強めているので、将来的にはロシアの軍事的影響力が駆逐されることも有り得る。極東シベリアでの中露の提携と競合はより複雑である。プーチン政権下のロシアでは人口希薄で開発が遅れた地域の主権統治を確固とするためにも、経済開発促進が戦略的な至上命題となっている。この目的のために、ロシアは極東のエネルギー資源およびインフラで中国の投資を呼び込んでいる。ウラジーミル・プーチン大統領と習近平国家主席の間には個人的な友好関係はあるが、地方自治体は中国の企業と犯罪集団の影響力の増大に重大な危機感を抱いている。中央アジアと違い、極東での両大国の衝突はロシアの領内で起きている。そうした地政学的な背景に鑑みて、ヨーロッパ大西洋諸国もプーチン政権のアジア転進がもたらす安全保障上の影響を見過ごすことはできない。

 中露の地政学関係の他にも極東シベリアにはヨーロッパ大西洋圏の民主主義諸国にとっても注目に値するものがある。コムソモリスク・ナ・アムーレはロシアの航空宇宙および軍事産業の中心で、この地域には過密なヨーロッパ地域よりも戦闘機やミサイルの試験に有利な巨大な空域がある。また、プーチン氏が2011年に建設を開始したボストーチヌイ宇宙基地はすでに使用されている。広大なシベリアのタイガは中国の違法伐採業者によって危機に瀕しているが、地球環境に対するその重要性はアマゾンその他の熱帯雨林にも劣らぬものである。さらに東に行けばベーリング海峡が北極海航行の時代には米露間の戦略要衝となる。歴史的にはフン族、アヴァール人、モンゴル人といったアジアの騎馬民族が、中国北方からルーマニア、ハンガリーにいたるユーラシア・ステップを通ってヨーロッパに侵入した。よって新しい地政学の時代が必ずしも近視眼的なローカリズムの時代を意味するわけではない。太平洋と大西洋の民主主義国の間の認識の相違を埋めるには、双方にとっての第一の脅威の相互関連を理解することが必要となるだろう。

 他方、日本は中露地政学に対する自らの対処の仕方を再検討する必要がある。アメリカ国内でアメリカ第一主義のポピュリズムがはびこる時代にあって、日本には地域的なパワー・バランスの保証が必要なことは間違いない。しかし、それだからと言って日本が民主主義諸国の同盟の抜け穴を作れということにはならない。EUとの経済連携協定に見られるように、トランプ政権下でアメリカの指導力に空白が生じる世界にありながらもリベラルな世界秩序を維持することには、日本の国益がかかっている。しかし日本はロシアが行なったクリミア侵攻、セルゲイ・スクリパリ氏への神経ガス攻撃、非武装の一般市民に化学兵器を使用し続けるシリアのアサド政権への支援といった逸脱行為に対する西側の制裁を空洞化してきた。それら「自主独立」の行動は日本が西側民主主義諸国の中で孤立するリスクをもたらすだけだが、一方でアジアには日本の国家的生存のために強力で頼りになるパートナーはない。さらに重要なことは、激烈な地政学的競合によって日本の国際的な地位は脆弱で壊れやすくなる。ナショナリストは、戦前と同様に中国とロシアどころかアメリカをも含めたどの地域大国からも完全に「自主独立」な日本を思い描いて誇らしく思うかも知れない。しかし中露の地政学は日本が単独で動かせるものではない。これはプーチン大統領がアメリカと同盟関係にある日本には北方領土を返還しないとにべもなく言ったことに端的に表れている。戦前の日本はナショナリストが言うように誇り高く自主独立だったわけではなく、日英同盟から無理やり切り離されてしまったのだということを忘れてはならない。

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