e-論壇「百花斉放」 e-論壇「百花斉放」 公益財団法人 日本国際フォーラム 公益財団法人 日本国際フォーラム
 「百花斉放」へようこそ。投稿へのコメントでないご意見は「新規投稿する」ボタンをクリックして投稿してください。
 なお、投稿記事を他所において引用、転載する場合は、その記事の出所が当e-論壇であることを明記してください。

投稿日で検索  //// 
キーワードで検索   
※キーワードはスペースで区切って複数の言葉を入力できます。
  <<前の20件 | 最新|次の20件>>  [ スレッド一覧 | *タイトル一覧 | 投稿一覧]
北朝鮮による「アメリカの宣戦布告」論について   
投稿者:篠田 英朗 (東京都・男性・東京外国語大学大学院教授・40-49歳) [投稿履歴]
投稿日時:2017-09-28 20:38 [修正][削除]
>>>この投稿にコメントする
No.3970
 アメリカのトランプ大統領は、「北朝鮮を完全に破壊する」と国連総会で演説し、「(北朝鮮は)長くはないだろう」と述べた。これに対して北朝鮮の李容浩外相が、「彼(トランプ氏)は宣戦布告をした」、と主張した。宣戦布告、というのは、現代国際法では意味をなさない概念である。国連憲章2条4項が武力行使を一般的に禁止しつつ、その例外として(個別的・集団的)自衛権と、集団安全保障を定めているだけだからである。宣戦布告の有無は儀式的な意味しか持たない。法的に重要なのは、武力行使がなされたかどうか、それが自衛権または集団安全保障に該当するかどうか、という点である。しかしトランプ大統領の発言が、武力行使に関する法の観点から見て、全く度外視すべきものだったとは言えないだろう。憲章2条4項は「武力による威嚇」を禁止しており、それに抵触する可能性がある行為は、少なくとも危うい発言である。なんといっても、「自国に対して相手国が武力行使をする意図を表明した」という経緯があれば、それは「威嚇」であり、自国の自衛権を発動する大きな要素になりうる。もっとも北朝鮮側も、過去に何度も2条4項の抵触が疑われる発言を繰り返してきていることにも注意が必要である。

 もちろん単なる言葉での威嚇に対して、先に武力行使で対応してしまうとすれば、「必要性と均衡性」を大原則とする国際法上の自衛権の発動の仕方としては、適切ではない。しかし威嚇された場合、威嚇した者の行動について、緊張感を持って捉えざるを得ないことは確かとなる。たとえば軍用機の自国領土への侵入があった場合などに、自衛権の行使を主張して撃墜することを正当化できるハードルが下がるだろう。あるいは実験であるかどうか不明なミサイル発射に対して自衛権の行使を主張して撃墜することを正当化できるハードルが下がるだろう。北朝鮮とアメリカは、なぜ自衛権行使のハードルを下げあっているのか。決して間違えてやっているわけではないだろう。意図的に、そうしている。自国の軍事力の効果を高めて、相手をよりいっそうけん制するために、自衛権行使のハードルを下げあっている。裏を返せば、単純な軍事力の誇示だけでは相手が威圧されないので、「俺は本気だぞ」、という説明を付け加えなければならない状態を、双方が作り出している。そのために自衛権行使のハードルを下げあう状態を進んで作り出しているのだと言える。何らかの計算間違いで不測の事態が発生するリスクが高まっている一方で、実は双方が決め手を欠いているにらみ合いの状態に入っているのが、現在の状況なのだ。これこそが本格的な相互「抑止」の状態だと言っても過言ではない。

 冷戦が終わって四半世紀以上がたち、冷戦時代の経験を教科書的にのみ理解する風潮が広がっている。たとえば「抑止」の理解がそれだ。「抑止」というのは世界戦争を防いだので、「抑止」があれば戦争を防げる、あたかも「抑止」が平和で安定した社会をつけるコツであるかのように語る人もいる。だが、冷戦時代に核抑止が「恐怖の均衡」と呼ばれていたように、抑止とは常に相手側に対する恐怖と、相手側に恐怖を与える努力とによって、成り立つものである。冷戦構造を完成された安定化のシステムであったかのように誤認すると、抑止を、楽観的に捉えすぎる傾向が生まれる。抑止があると、世の中が平和で安定する、といわんばかりの風潮が蔓延する。北朝鮮が核兵器一個持ったら、日本も一個持てばいいじゃないか、それで安定した平和な世の中が来るのであれば、と言った風潮が蔓延する。あるいは、抑止して安定化させながら、ゆっくり「対話」をして双方わかりあったらいいじゃないか、といったのんびりした議論が生まれる。

 しかし抑止というのは、本来は恐怖が常態化している中で、機能する。ぎりぎりのところで最悪のオプションだけは自分も相手も回避するように動くようにしむけるのが、抑止というものである。抑止とは、安定の仕組みのことではない。抑止とは、恐怖が常態化している状態であることを忘れてはならない。

No タイトル 投稿者 日時
4200 米ロ首脳会談と世界秩序の行方 河村 洋 2018-07-16 13:25
4199 はやぶさ2への期待 船田 元 2018-07-13 10:43
4198 死刑制度をめぐる議論と憲法9条 篠田 英朗 2018-07-12 18:36
4197 貿易戦争には「利」をもって応えよ 四方 立夫 2018-07-11 12:30
4196 安倍一強にないないづくしの候補ら 杉浦 正章 2018-07-10 05:20
4195 不確実性増大、トランプの陥穽 鍋嶋 敬三 2018-07-09 11:13
4194 わが国の死刑制度について感じたこと 犀川 幸雄 2018-07-07 22:36
4193 我々は沖縄戦と島守の塔の存在を忘れてはならない 船田 元 2018-07-05 15:02
4192 米に北の「非核化」に対する懐疑論 杉浦 正章 2018-07-05 06:48
4191 トランプ大統領はなぜ国連人権理事会を離脱したか 赤峰 和彦 2018-07-04 20:22
4190 中国国内経済に要注意 四方 立夫 2018-07-02 11:02
4189 (連載2)マクロン大統領は西側の道徳的普遍性を代表 ←  (連載1)マクロン大 河村 洋 2018-06-30 23:55
4188 (連載1)マクロン大統領は西側の道徳的普遍性を代表できるか 河村 洋 2018-06-29 23:15
4187 党首討論は存在意義を問われる、抜本改革を 杉浦 正章 2018-06-28 06:29
4186 長島昭久先生のご提言に賛同します ←  (連載1)米朝首脳会談後の日本外交 四方 立夫 2018-06-27 14:47
4185 今こそ、新しい国際的枠組み「G11」を設立すべきだ 松井 啓 2018-06-27 11:20
4184 米朝首脳会談とその後 船田 元 2018-06-26 11:24
4183 秩序破壊に暴走するトランプ外交 鍋嶋 敬三 2018-06-25 10:53
4182 (連載2)米朝首脳会談後の日本外交 ←  (連載1)米朝首脳会談後の日本外交 長島 昭久 2018-06-22 10:32
4181 (連載1)米朝首脳会談後の日本外交 長島 昭久 2018-06-21 10:30

  <<前の20件 | 最新|次の20件>>  [ スレッド一覧 | *タイトル一覧 | 投稿一覧]