第36政策提言
「ポスト3.11における日本と世界」
第2回政策委員会メモ
第36政策提言「ポスト3.11における日本と世界」に関する第2回政策委員会が下記の要領で開催された。なお、タスクフォースより第2回政策委員会用に作成された「提言中間案試案」が事前に、また事務局から同「試案」に対する欠席政策委員等からのコメントが当日、配布された。また、本政策提言のテーマは、本日以降「ポスト3.11における日本と世界」から「ポスト3.11の日本のエネルギー戦略」に改題されることが了解された。
| 1. | 日 時: | 2011年9月29日(木)午後2時より午後4時半まで |
| 2. | 場 所: | 日本国際フォーラム会議室 |
| 3. | 出席者: | 桝本晃章日本動力協会会長を基調報告者に迎え、島田タスクフォース主査、伊藤憲一政策委員長他政策委員17名が出席。 |
| 4. | 審議概要 |
(1)桝本晃章会長からの基調報告
はじめに、桝本晃章日本動力協会会長より、以下のとおりの基調報告があった。
(イ)エネルギーを取り巻く世界的状況
エネルギーは戦略物資といわれ、第二次世界大戦では米国の対日石油禁輸が日本の対米開戦の一つの引き金となっている。また30数年前には石油危機に遭い、経済・社会的に大変大きなショックを受けた。エネルギーという観点からみれば、今回の東日本大震災に伴う福島沿岸部での大津波は、この2回のショックに匹敵するほどのショックとなっている。加えて、世界的な不況が世界のエネルギー事情に厳然とした影響を及ぼしている。ここ10年間、日米欧は一次エネルギー需要が伸びておらず、中国、インド、ブラジルといった新興国が、世界のエネルギー需要を増加させている。ここ20年来気候変動問題に対して、EUは粛々と対応を進めているが、オバマ大統領の打ち出したグリーンニューディール政策は効果が上がっていない。他方、経済的な背景として忘れてはいけないことは、現在世界はカネ余りの状態にあるため、投機的な動きがあれば、いつでもエネルギー分野にも資金が流れ込み、価格は高騰するということである。
(ロ)エネルギー分野における現在の世界情勢
現在のエネルギー情勢を整理すると、(a)「中東の春」や南スーダン独立などで、石油・ガスの主要産出地域であるMENA(中東/北アフリカ)の社会情勢が不安定化していること、(b)シェールガス(頁岩に浸透しているガス)といった非在来型天然ガスの生産が可能となったことや、洋上フローティング液化設備の稼働により、将来的にはパイプライン輸送に頼らずガスを運べるようになる見込みであること、(c)エネルギー開発・生産の新たな主役として、かってのセブンシスターズは、5大メジャー(Exxon Mobil, Royal Dutchなど)になり、さらに、ロシアのGazpromや中国のCNPC(中国石油天然気集団公司)などの新たな国営石油・ガス開発企業が登場していること、(d)欧州ではEUから「20-20-20目標」(2020年までに、温室効果ガス排出量を20%削減し、エネルギー消費に占める再生可能エネルギーの割合を20%に引き上げ、エネルギー需要を20%削減するというもの)との指示を受けて、国によっては大規模な助成が行われていること、(e)福島において大規模な原子力発電事故が発生したこと、の5点が重要な出来事といえる。このような情勢の中で、エネルギーの戦略物資としての要素は顕在化してきており、大資源国であるロシアや、自立的・独立的な動きが見られるベネズエラ、ブラジル、スーダンなどの動きも注目される。
(ハ)福島事故の影響
福島事故の影響を受けた世界の動きは、大きく2つに分かれている。1つ目はドイツ・イタリア・スイスなどに見られるような原子力開発を中止しようとする動きである。もっともラディカルな動きを見せたのはドイツで、現存の原子力発電所の全廃を決定している。2つ目は、フランスを中心に、世界規模で原子力発電の安全性をさらに強化しようとする動きである。国の数でいうと圧倒的に後者が多く、IAEAも原子力発電の安全強化のための「アクションプラン」を提示している。
(ニ)日本のエネルギー政策への問題提起
最後に、日本のエネルギー政策について、問題提起をしたい。
第一に、福島事故後の菅政権の浜岡原子力発電所の運転停止要請にみられる政策転換により、多数の原子力発電所が供給戦線から離脱し、現在は日本の原子力発電所の3分の1が稼働を停止している状態であることから、まず優先すべき政策は、ここ1、2年の電力の安定供給の確保である。
第二に、野田政権が来年夏までに策定するとしているエネルギー政策の実現は、日本の将来にとって大きな分岐点になる、という認識を広く共有したい。
第三に、エネルギー政策策定にあたっては、世界のエネルギー情勢をよく弁え、エネルギー資源の特徴を十分科学的に把握し、投入資源の優先順位をよく考え、最適化して活用することを期待したい。
第四に、日本が今後進むべき方向は、原発事故に関する情報の提供を通じ、国際的な「原子力安全をめぐるGlobal Governance」強化に積極的に貢献することである。
第五に、中長期のエネルギー政策の策定に当たっては、エネルギー多消費型から寡少消費型へのライフスタイルの転換が必要であり、その鍵となるのは低炭素社会創りである。また、東南アジア地域を中心とした途上国への貢献も忘れてはならない。
最後に、政策では「いかなる主体が何をするのか」を明確に示すことを忘れてはならず、その主体の大部分である民間に対し政府は活力発揮のための条件整備に徹してほしい。
(ホ)具体的政策の提案
上記(ニ)の問題提起を実現させるための具体的政策は、以下のとおりである。
第一に、日本の技術や経験を活用し、火力発電の一層の高効率化を図るとともに、自動車、家電、建材、交通制御システムなどのエンドユースやビル、住宅などの建物における省エネ技術の改善・向上を図る必要がある。これらのことを実現させるには、トップランナー制度などで好事例を作り、普及させていくのが望ましい。
第二に、海外からのエネルギー資源の安定的な供給の確保のために、諸外国との「信頼関係確立外交」の展開が必要だが、その実現にはODAなどの国家資金を有効に活用していくのがよい。
第三に、国内エネルギー資源の確保や省エネ・エネルギー利用の高効率化が必要だが、その促進には、自然エネルギーと再生可能エネルギーの現実的な利用という方法がある。ただし、その促進においては、地域特性を踏まえた開発やさまざまな試みの奨励によるモデルケースの創出が重要である。
最後に、省エネ社会創りの最大の課題は、膨大な既存ストックの更新であるが、そのためにはエコ・ポイント制度の導入など、政策的支援が必要である。
(2)政策委員間の審議
このあと、出席政策委員間で審議が行われたが、特に注目すべき発言は、以下のとおり。
(イ) 省エネ社会づくりに向けたライフスタイルの転換について
「エネルギー政策の策定と実現に向け、低炭素社会が結果として作られていくことは否定しないが、あまりこの面を強く出すと、規制強化の議論になりかねない」「提言中間試案にある『苦役型の節電は長続きしないし望ましくもない。求められるのは人々が快適な生活を享受しながら節電が実現する技術革新、構造改革、ライフスタイルの改革である』との記述は、桝本氏の『エネルギー多消費型から寡消費型へのライフスタイルの転換が必要』という主張と、言おうしていることは一致している」などの発言がなされた。
(ロ) 節電の議論について
「節電は本当に必要なのか。ピークカットの議論であったはずなのに、いつのまにか節電の方向に議論が向かっているのはおかしい」「電力が足りないのは午後2-5時の時間帯であり、この時間帯を除けば、供給力は十分にあるので、過度な節電は必要ない。そのことを、一般消費者に伝える必要がある」「メディアでの電力使用量の表示は、ピークカットに有効な表示方法に変えるべきだ」などの発言がなされた。
(ハ) 放射線や原子力に対するメディアや国民の認識について
「メディアの議論を見ていると、エモーショナルというか、結論先行の議論に終始し、発言者は、廃止論の方向で意見を述べないと、御用学者のレッテルを貼られるという状況なのは、非常に問題。提言では、冷静かつ客観的な議論をしてほしい」「米ソによって大気圏内での核実験が行われていたころの放射線の量は、現在の1万倍とも言われる。放射線については、もう少し慎重な議論をしていく必要がある」「放射線に対し恐怖感を持っている国民は多いので、政府で統一見解をつくって、過度な心配が必要ないことを伝えていく必要がある」「長期的に原子力発電を放棄することは出来ないというのが、世界全体の進んでいる方向だ。しかし『これまでの事故経験を生かし、最も進んだ安全な原発をつくることで世界に貢献する』という野田首相の国連での演説は、今の日本では違和感のある議論となってしまっている」「福島原発事故を経験した日本は、この挑戦にひるんで後ずさりするのか、この挑戦を乗り越えて次の段階への道を切り開くのか、その岐路に立っていると思う」「原子力に限らず、技術に絶対安全というのはない。社会的にそのリスクを理解し、受け入れた上で、原子力発電を進めるべきであり、その説明にごまかしがあってはならない」「原子力発電で気になるのは、後処理の問題だ。使用済み核燃料や廃炉の問題が今後どうなっていくのか、見極める必要がある」などの発言がなされた。
(ニ) 外交と原子力について
「日本を囲むロシア、中国、北朝鮮がすべて核保有国であることが、日本の議論で抜けている。日本が原子力技術を持っていることは大きな外交力となっている」との発言がなされた。
(ホ) 電力の自由化について
「提言がどういう方向性を出すかは別として、電力の自由化は、避けて通れない問題」「日本は電力の自由化については後発国なので、先発国の米欧での自由化が、結果としてどうなっているのか、をよく検証する必要がある」「電力の自由化は、ビジネスとしては十分成り立つが、電力の社会的な役割を考えると懸念がある。しかし、競争は重要であり、最終利用者による電力会社の選択を可能にするような方向に向かうことは重要」「電気の送電、配電は1つの供給体制の中で整合性を確保して行われているため、『送電と配電を分離して、自由化すれば、それでよい』とは、簡単には言えないのではないか」などの発言がなされた。
(ヘ) 原子力部門の国有化について
「一般論として、電力部門は民間の方が質的にもコスト的にも優れたパフォーマンスとなるが、原子力部門だけは政府が担うべきではないか」「原子力部門を国有化するということは、リスクは国が負担することになるが、民間企業が担う場合は、事故発生時の賠償額にシーリングを設ける必要がある」などの発言がなされた。
(3)島田主査の発言
最後に、島田主査より、つぎのとおりの総括があった。
非常に広範囲にわたる報告を頂いたが、最終的な提言では、比較的確実に言えることを集約し、現実的で、実現性のある、納得される内容に絞っていきたい。チェルノブイリやスリーマイル島での原発事故の後、日本では「原子力ルネサンス時代」の到来ということが言われたが、今回の原発事故で「実態は全く違うのではないか」と国民は愕然とした。提言では「原子力は安全であるべきだが、実際には非常に危険であるので、徹底的にその安全度を高めなければならない」ということを述べたい。例えば、ソフト(東電の様々なルールの非厳格さ、意志伝達の不明確さ、消防署の訓練の少なさ)やハード(老朽化した原発設備の使用)の諸問題を指摘するつもりだ。また、後処理では中間処理、最終処理の計画をすべて国民に説明し、最善をつくすべきである。その際には、原子力だけではなく、化石燃料、自然エネルギーをミックスし、グローバル・ベスト・プラクティスで新しい日本のエネルギー戦略を考えていくべきであろう。原子力や、化石燃料による発電はできるだけ減らし、その一方で、自然エネルギーによる発電を、先発国であるドイツ、デンマーク、ニュージーランドから学ぶべきである。報告資料8頁の「エネルギー源別の発電原価の比較表」では、自然エネルギーのコストが高くなっているが、原発のコストは、原子炉の建設費だけでなく、住民対策や後処理のための費用も入れると、表の記載値の数倍になる。また、自然エネルギーのコストは、その開発が進めば安くなっていく。電力の自由化については分散型の供給構造は重要だし、消費者がさまざまな電力主体から電力を選べるようにすべきだが、そのためには情報開示を進めるべきだ。
(4)提言のテーマの変更について
最後に、伊藤政策委員長より「提言のテーマ『ポスト3.11における日本と世界』について、橋本宏政策委員より『ポスト3.11の日本のエネルギー戦略』に変更してはどうかとの提案があったが、政策委員会での議論の実態に鑑み、本日より第36政策提言のテーマは『ポスト3.11の日本のエネルギー戦略』に変更したい」旨の提案があり、満場一致で了承された。
(文責、在事務局)
