研究センター便り

「領土海洋問題と危機管理メカニズムの構築」研究会
概要

公益財団法人 日本国際フォーラム

 本研究会は2015年4月に、下記の主査・メンバーおよび目的のもと、当フォーラム内に組織された2年度にわたるプロジェクトである。定例の研究会合に加え、海外調査や国内外のしかるべき有識者および各種共催機関と意見交換等を行い、それらの成果を2017年3月に政策提言としてとりまとめ発表するものである。

【主  査】伊藤  剛日本国際フォーラム上席研究員/明治大学政治経済学部教授
【メンバー】浅野  亮同志社大学法学部教授
佐藤 考一桜美林大学リベラルアーツ学群教授
佐島 直子専修大学教授
庄司 智孝防衛省防衛研究所地域研究部米欧ロシア研究室長
山田 吉彦東海大学海洋学部教授

(名字五十音順)

伊藤剛主査

【目  的】

 本研究会は、アジア太平洋地域の海洋安全保障問題において、各種の危機発生を抑止ないしは管理するメカニズムのあり方を探り、以て、かかるメカニズム構築に向けての日本の外交的指針を提示することを目的とする。具体的には、当該地域の領土海洋問題について、(イ)関係各国が実際に何を考えているかを明らかにすること、(ロ)米国、豪州等の同盟国および準同盟国の安全保障政策を視野に入れ、それらの国との協力関係の可能性を探ること、(ハ)近年、重要性を増しつつある歴史的側面に関する相互理解促進の手法を探ること、および(ニ)上記3点を踏まえた日本の対外政策のあり方を「外交力」と「ハードパワーの拡充」の二つの観点から明らかにすること、を目的とする。

 (イ)については、たとえば現在、中国は、現在、樺太と北海道の間の宗谷海峡の存在を重視しつつあり、また沖縄本島や八重山列島近海を通過するときに日本に事前通告を行っているが、このような中国の独自の「不文律」は、もとより国連海洋法条約のどこにも書かれていないにもかかわらず、たしかに中国が独自に自己規定している対外政策上の「ルール」である。このような不文律は、中国に限らず、関係各国がいずれも、程度・内容の差こそあれ保持しているものであり、それらへの理解は各種の危機発生を未然に防ぐ有効な手立てとなりうると考えられる。

 (ロ)については、現在、アメリカの存在・影響力を考慮に入れずにアジア太平洋地域の国際関係を語ることはできないことから、日本が当該地域における危機発生の抑止・管理において、いかに日米間で協力をしうるか、その方途を探るものである。とくに従来のアメリカの対アジア政策には、相手に厳しく接する「封じ込め」と、その逆の「関与」との対抗軸が見られたところ、近年の米国の国力の変化をも踏まえつつ、「中国+日本=ゼロ」とされる米国の対アジア政策の変化の可能性についても考察したい。また、最近、南シナ海で日米豪が共同演習を行ったことに鑑み、オーストラリアの海洋安全保障政策についても明らかにしたい。

研究会合のようす

 (ハ)については、一般に、領土海洋問題には、法的、歴史的、政治的な3つの側面が複合的に絡んでいるところ、とくに近年のアジア太平洋地域の領土海洋問題では、このうち歴史的側面が前面に出される傾向にあることに注目し、その現状改善のための方針を探るものとする。たとえば、韓国による竹島所有、中国による尖閣諸島領有権の正当化などは、日本の戦前に見られた帝国主義的政策批判と綯交ぜになって主張されているが、「歴史の和解」のためには加害者・被害者双方の努力が必要である。加害者による「謝罪」と、被害者による「赦し」との双方がないと、前者は「いつまで謝ればいいのだ」という苛立ちが、後者は「いつになったら謝るのか」という猜疑心が継続する。したがって、その悪循環をいかに断ち切るかが問われるべきであろう。

 (ニ)については、上記3点を踏まえつつ、日本の対外政策のあり方を探るものである。一方で、日本としても、今後ハードパワーの一定の拡充は重要となってくることが考えられる。外交力は、それを裏打ちするハードパワーがあって初めてその効果を発揮するからである。同時に、ハードパワー拡充に際して、それを理論的に正当化する外交力も必要となる。その意味で、一方における「外交力」と、他方における「ハードパワーの拡充」との双方を両立させる総合的な対外戦略を提示することにしたい。それは、日本であれ中国であれ、真の「大国」のあるべき姿を示すことになるだろう。「大国」とは、自分たちの意のままに国際政治を動かす国という意味でなく、国際社会全体における「負担」や「責任」も引き受ける(いわゆる「国際公共財」を提供する)ことであるからである。独りよがりの大国ぶりでは「follower」を形成することができない。リーダーシップは責任分担と表裏一体であるべきである。

 なお、本研究会は当フォーラムが、2013~2014年度にかけて実施した「アジア太平洋地域の新たなシンクタンク・ネットワーク形成」プロジェクトの延長線上に位置づけられるものである。このプロジェクトは、2012年、日中国交正常化40周年という節目に際し、日中関係がこれまでにない悪化をみた状況を受けて、政府間では討議しにくいテーマに関し、関係国の有識者が率直な討議が可能となるようなトラック2レベルでの知的ネットワークを形成することを目的として実施され、その活動(往訪、招聘、国際シンポジウム開催等)をつうじて、アジア太平洋地域の34のシンクタンク等とのネットワーク関係を構築した。

 本研究会では、その「ネットワーク」を十分に活用することで、これまでにない研究成果を提示することが期待される。