研究センター便り

「積極的平和主義の時代の日米同盟」研究会
概要

公益財団法人 日本国際フォーラム

 本研究会は2015年4月に、下記の主査・メンバーおよび目的のもと、当フォーラム内に組織された2年度にわたるプロジェクトである。定例の研究会合に加え、海外調査や国内外のしかるべき有識者および各種共催機関と意見交換等を行い、それらの成果を2017年3月に政策提言としてとりまとめ発表するものである。

≪日本側研究チーム≫

【プロジェクト・リーダー/主査】

神谷 万丈日本国際フォーラム上席研究員/防衛大学校教授
【メンバー】飯塚 恵子読売新聞国際部長
加藤 洋一日本再建イニシアティブ研究主幹
榊原  智産経新聞論説委員
高原 明生日本国際フォーラム上席研究員/東京大学教授
中西  寛京都大学教授
中山 俊宏慶応義塾大学教授
細谷 雄一慶応義塾大学教授
渡部 恒雄笹川平和財団特任研究員

(名字五十音順)

≪米国側研究チーム≫

【主査】ジェームズ・プリスタップ米国防大学国家戦略研究所(INSS)上席研究員
【メンバー】ラスト・デミング元米国務省首席次官補代理・日本部長
ロバート・マニング米大西洋協議会ブレント・スコウクロフト国際安全保障センター上級研究員
ジェームズ・ショフカーネギー国際平和財団上級研究員
ニコラス・セーチェーニ米戦略国際問題研究所(CSIS)日本部副部長・主任研究員

(名字アルファベット順)

神谷万丈主査

【目  的】

 本研究会は、今日の同盟は「スマート・パワー同盟」でなければならず、日米同盟もその例外ではないとの認識に基づいて進められる。ハーバード大学のジョセフ・ナイ教授らが主張するように、今日の世界における外交・安全保障政策は、ハード・パワーとソフト・パワーをいわばパワーの両輪として、両者をバランスよく適切に組み合わせていかなければ十分な成果を挙げにくくなっている。ナイ教授らは、このような新しいパワーのあり方を「スマート・パワー」と呼んでいる。今日の国際政治は「スマート・パワー時代」の入り口に立っており、それゆえ、これからの日米同盟は、①軍事力を中心とする日米同盟のハード・パワーの維持・強化と、②日米同盟という制度の持つソフト・パワーの促進を併せ行うことによって、さまざまなタイプの安全保障課題の解決を追求していく必要があるというのが、本研究会の認識である。

 今日の世界では、新興諸国の台頭が、国際的なパワー分布に大規模な変動を生じさせつつある。新興国が国力で先進大国に追いつき、追い越そうとするという現象は、過去にも見られたことである。しかし、最近の中国の台頭は、それが「スマート・パワー時代」が到来しようとする中で起こりつつある点に新しさがある。過去の新興国の台頭の事例では、新興国と先進大国の競争は、軍事や経済を中心としたハード・パワーについて展開した。現在進行中の中国の台頭においても、それは重要だが、同時に、中国と先進大国の間では、他国を引きつけるソフト・パワー面での競争も激しさを増している。(たとえば、日米中それぞれのASEAN諸国への働きかけを想起されたい。)

 同時に、今日の世界では、安全保障の意味も変化してきている。伝統的には、安全保障の中核は、国家間の戦争と平和の問題を主眼とする軍事的安全保障であるとされてきた。ところが、冷戦終結後の世界では、他国による軍事的侵略の蓋然性が多くの国にとって大幅に低下した一方、突発的な国際経済の擾乱、国際テロリズム、内戦型紛争、グローバルな環境問題、パンデミックといったいわゆる非伝統的脅威の重大性が急速に顕在化した。また、自由で開かれたルール基盤の国際秩序の維持というより根本的な問題が、安全保障の最重要課題として浮上している。

 このような時代における同盟は、軍事的な協力だけでは目標を十分に達成できなくなっている。伝統的には、同盟とは、メンバー国の軍事力を中心とするハード・パワーを結集することによって、軍事的安全保障を追求するための枠組みとして理解することができた。だが、今日の同盟においては、メンバー国には、より広義の安全保障を追求するために、ハード・パワーの結集とともに、同盟の外にある諸国を自らに引きつけ、自由で、開かれた、ルール基盤の非軍事的協力の可能性を追求できるように同盟の魅力を高める方策をとること、すなわち同盟のソフト・パワーの促進を併せ行うことも求められるのである。

研究会合のようす

 日米同盟にもこのことがあてはまる。中国の台頭や北朝鮮の脅威を前に、日米同盟にとって、両国間の軍事協力は依然として最も基本的な要素である。だが同時に、これからの日米にとって最重要課題である自由で開かれたルール基盤の国際秩序を守るという目標を達成するには、日米同盟は、日米以外の国々をできるだけ多く中国ではなく自らの側に引きつける魅力を持たなければならない。これが、これからの日米同盟は「スマート・パワー同盟」でなければならないという本研究会の基本認識の意味である。

 日米同盟を、こうした歴史的な変革期に十分に対応し得る実効性を持つ「スマート・パワー同盟」たらしめるために、日米両国には何が求められているのか。とりわけ、国際協調主義に基づく「積極的平和主義」を掲げるようになった日本には、いかなる新たな取り組みが求められているのか。本研究会「積極的平和主義の時代の日米同盟――平和的なルール基盤の国際秩序を支える実効性ある『スマート・パワー同盟』に向かって」は、これらの問いに応えることを目的とする。