外交円卓懇談会

第139回外交円卓懇談会
「中東情勢をどうみるか」(メモ)
外円懇のようす

2017年11月30日
公益財団法人日本国際フォーラム
グローバル・フォーラム
東アジア共同体評議会
事務局

 日本国際フォーラム等3団体の共催する第139回外交円卓懇談会は、ナジーブ・エルカシュ(Najib EL-Khash)リサーラ・メディア代表を講師に迎え、「中東情勢をどうみるか」と題して、下記1.~5.の要領で開催されたところ、その冒頭講話の概要は下記6.のとおりであった。

1.日 時:2017年11月30日(木)15:00~16:30
2.場 所:日本国際フォーラム会議室
3.テーマ:「中東情勢をどうみるか」
4.報告者:ナジーブ・エルカシュ(Najib EL-Khash)リサーラ・メディア代表
5.出席者:18名
6.講師講話概要
 ナジーブ・エルカシュ・リサーラ・メディア代表の講話の概要は次の通り。その後、出席者との間で活発な質疑応答が行われたが、議論についてはオフレコを前提としている当懇談会の性格上、これ以上の詳細は割愛する。

(1)アラブ世界における文明発展の歴史
 日本や欧米においては、現在の中東の混乱、特にシリア問題というと、まずISISを思い浮かべることだろう。そしてその問題が、宗教に深く根差した対立にあると考えられているかもしれない。しかしそうした考えは、本質を全く見誤っているといわざるをえない。現在の中東情勢を理解するには、この地域の歴史、また近代の国家建設の経緯を理解しなければならないだろう。
 そもそも、アラブ世界である中東、北アフリカの地域は、地中海側に位置する北側とアラビア海側に位置する南側が緑に覆われている一方で、アラビア半島の中央は砂漠地帯である。そのため、特に北側のカイロ、ダマスカス、カサブランカといった地中海側の都市で文明が発達した。イスラム王朝の歴史をみても、まずはダマスカスを首都として王朝が立ち上がり、その後バグダートなどに遷都するといった経緯を辿ってきた。このように、アラブ世界の歴史と文化の蓄積は、地中海側にあるのである。現在、中東というと、ドバイやクェートなどがイメージされるであろう。しかしこうした砂漠地帯は、石油の発見とまたこの地域の石油に対する世界的需要の拡大がなされるまで、大変発展が遅れていたのである。つまり数十年までは全く立ち後れていたこれらの国が、現在大変裕福になっているため、エジプトやシリアなど古来より発展していたアラブ世界の国の市民からは、これらの国に対して複雑な感情があることは確かである。

(2)アラブ世界における第二次世界大戦後の国家の発展
 次に、現在のアラブ国家が建設されていった第二次世界戦後からの経緯について述べたい。第二次世界大戦後、アラブ世界ではナショナリズムが高まり、それらを背景に地中海側の地域ではエジプト、イラク、リビアなどで社会主義を標榜した国家が建設された。その一方で、どちらかというと辺境の地であった中央の砂漠地域では、イスラムの厳しい宗教解釈に基づいた国政を標榜するサウジアラビアなどの国家が建設された。
 ただこれらの国家の基礎となっている社会主義および厳しい宗教解釈は、それぞれの政権の正統性をうちたてるための手段となっている側面が強く、そのため現実との乖離が強く、問題が生じている。例えば、社会主義国家を標榜するエジプトなどは、実際には独裁国家である。厳しい宗教解釈を求めるサウジアラビアなどは、それがなければ現政権のイスラムの宗教上の正当性を保てなくなるために、そのような厳しい解釈を導入している側面が強く、実際には米軍を駐留させ、欧米の文化などもかなり取り入れている。こうしたアラブ世界にある矛盾が、徐々に市民の中で不満となって蓄積され、それがピークに達して引き起こされたのがアラブの春である。そして、このアラブの春に、欧米やISなど様々なアクターが関与し、現在の中東の現状となっているわけである。

(3)シリアの現状と課題
 特にシリアにおいては、アラブの春によって政権、政権に反対する勢力、ISIS、さらにそれぞれを支援する勢力が入り乱れて現在の紛争状況に陥っている。欧米メディアでは、ISISが広い地域を支配し、非常に強い勢力となっているかのように報道されているが、これは事実と全く異なる。ISISが勢力圏として主張また支配している地域は、砂漠地域でもともと大きな都市がなく、インフラも未発達の地域である。ではなぜ欧米のメディアは、ISISが強い勢力で、さらに彼らが存在している何もない地域に国家が存在しているような報道を行うのか。それは、ISISがセンセーショナルな行為を行うために報道しやすく、また視聴する側もそれを求める需給関係があるからであろう。
 シリアの問題は、端的に述べて独裁政権にある。シリアで紛争状態になって以降、殺害された人口割合に関するある統計では、ISISによって殺害されたのはわずか全体の1.6%であるが、政権による空爆などで殺害されたのは92.2%にのぼる。シリア政権は、反体制側がいるとされる都市などに無差別爆撃などを行い、虐殺が行われているのである。そしてこの虐殺から逃れるべく、都市部のホムスやアレッポの市民が、欧州に逃れようとして難民になっている。反対に都市部でなく砂漠の田舎の方の市民は、ISISの支配する地域に逃れる人が多い。田舎の方では、欧州に逃れられるという知識を持っている人が少なく、またISISの支配する地域では彼らのルールにさえ従っていれば生命は保障されるからである。
 このように、シリア政権の虐殺を止めなければ、難民もISISの問題も継続しいくことになるだろう。だが、前述のように欧米メディアは全く見当違いの報道ばかり行っている。また、国際社会は、シリア政権の虐殺を止めようとする有効な動きもなんらとっていない。2013年にシリア政権が大量破壊兵器を使用するまで、国際社会はシリアに何の介入も行わなかった。つまり、大量破壊兵器が使用されなければ、国際社会はシリアで起きている虐殺に何の関心も示さなかったのである。シリアの市民には、国際社会に裏切られたという認識が広がっている。

(4)イランによる勢力拡大
 最後に、現在の中東で勢力を拡大しているイランの動きについて言及しておきたい。現在の中東の混乱に乗じて、もっともうまく立ち回っているのはイランである。イランは、戦争後のイラク政権に大きな影響力をもつようになり、事実上イラクを支配している。また、シリアにも勢力を拡大している。そして、そもそもレバノンはシリアの勢力下である。このように、イランはかつてないほどに大きな勢力圏を構成しているのである。なおイランは、欧米メディによって宗教国家のようにみられているが、実際にはペルシャ・ナショナリズムによる国家である。自らの勢力を拡大するために、各地で抑圧されているシーア派を救済することを建前に勢力を拡大している。つまりイランは、シーア派による宗教を自国の権益拡大の手段にしているのである。

(文責在事務局)