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(連載2)日本「ユーラシア外交」の変遷史と構造分析 ← (連載1)日本「ユーラシア外交」の変遷史と構造分析  ツリー表示
投稿者:鈴木 美勝 (神奈川県・男性・専門誌『外交』前編集長・-) [投稿履歴]
投稿日時:2018-04-07 00:03 [修正][削除]
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No.4127
 「自由と繁栄の弧」との関連で言えば、アメリカの地政学者ニコラス・スパイクマンの<リムランド理論>も重要です。スパイクマンは、米海軍の戦略家アルフレッド・マハンの理論を踏まえてマッキンダー理論を継承・発展させました。ハートランドの外周(周縁地帯)即ち<リムランド>の重要性を指摘したのです。彼は次の二点を主張しました。第一点、アメリカは海沿いの諸国と密接な連携関係を構築すべきだ、第二点、ハートランドの脅威を封じ込めるべきだ。このスパイクマン理論を具現化したのが、共産主義封じ込めのトルーマン・ドクトリンやジョージ・ケナンの「ソ連封じ込め」政策です。さらに言えば、2001年の9・11米同時多発テロ直後に発表された米国国防総省の報告書QDR2001(「四年ごとの国防報告の見直し」)は、アフリカ北部、バルカン半島、中東を経て東南アジア、朝鮮半島に連なる潜在的紛争多発地帯を「不安定の弧」と呼びました。麻生外相がその5年後に提起した「自由と繁栄の弧」は、この「不安定の弧」を強く意識した日本の外交政策だと言えます。

 「自由と繁栄の弧」構想は、「不安定の弧」を安定の域にまで引き上げるために、日本にとって可能な非軍事的支援をする、具体的には東南アジア、中央アジア、中東、東欧諸国などに対して民主化推進支援を行うという意思表示だったのです。第一次安倍内閣は、もう一点、現在の「積極的平和主義」に基づく「地球儀を俯瞰する外交」の淵源となる考え方を提起しました。それが、2007年夏、インド訪問の際に安倍首相が行った「二つの海の交わり」と題した国会演説です。今や安倍戦略外交のキーワードになっている地政学的概念(インド太平洋)は、この演説で初めて登場しました。そして、5年4か月後、「二つの海の交わり」の発展型として公表されたのが、日米豪印4か国による「安全保障ダイヤモンド」構想(2012年12月27日、プロジェクト・シンジケートのウェブサイトに掲載された英文の小論「アジアの民主的安全保障ダイヤモンド“Asia’s Democratic Security Diamond”」)です。

 この小論は、事情あって発表直後に封印され、事実上“お蔵入り”になります。しかし、日本外交の基本的な考え方、危機認識を先取りしたものとして価値ある小論です。例えば、「南シナ海は中国の海〝北京湖〟になろうとしている」との認識を示した上で、次の三点の考え方を提示しました。第一に、太平洋における平和と安定、航海の自由はインド洋の平和と安定、航海の自由と切り離せない、第二に、尖閣周辺海域でも、日常化した中国の威圧行動を許してはならない、第三に、インド洋地域から西太平洋に広がる海洋コモンズを防護するために、日本、米国(ハワイ)、豪州、インドがダイヤモンド状に連携・協力する必要があるこれが、第二次安倍内閣以降の「開かれた、海の恵み:日本外交の新たな5原則」(2013年1月)、「自由で開かれた二つの大洋、二つの大陸の結合」(16年8月)という演説草稿につながってきたのです。

 以上の特徴を踏まえて、橋本戦略外交(ユーラシア外交)との比較で言えば、安倍戦略外交は、次の三点に要約できます。第一に、橋本外交の戦略対象がロシアだったのに対して、安倍戦略外交の「陰の主役」は「一帯一路」政策を推進する巨大国家・中国に変わった。第二に、橋本首相の外交的フォロワーがロシアン・スクールだったのに対して、安倍戦略外交のフォロワーは谷内正太郎(国家安全保障局長)、兼原信克(内閣官房副長官補)、谷内智彦(内閣官房参与)の日米同盟派3人です。第三に、対中国外交との連動性を考慮した橋本首相の戦略外交が、ユーラシア内陸部との関係構築にまで至らなかったのに対して、安倍戦略外交の主要な柱の一つには、トルコ、ロシア、インド、モンゴル、中央アジア諸国などにまで俯瞰した戦略外交が含まれています。

 最後に、日本の対ユーラシア外交には、新たな課題として北極圏問題が絡んでくる点を指摘したいと思います。近年、酷寒の地・北極圏が、地球温暖化による海氷融解とともに、大きな関心事となってきました。日本のユーラシア外交との絡みで言えば、北極海航路の航行可能期間が長期化するのに伴い、安全保障問題が極めて重要になります。凍結した極北の地を抜きにして組み立てられてきたマッキンダーらの伝統的地政学者の辞書に、(北極海の海氷融解→長期間航行可能な北極海)という言葉はありません。今後、北極圏をめぐる根本的な変動は、冷戦期とは次元の違う米欧露中のグレートゲームや安全保障次元における他のファクターにも影響を及ぼし、諸問題が派生してくる可能性があります。例えば、第一に、「SLBM(潜水艦発射弾道ミサイル)の聖域」とされてきたオホーツク海の軍事的ポジションと、「氷上のシーレーン」として「一帯一路」に組み込んだ中国の北方航路進出との関係はどうなるのか、第二に、北方領土の軍事的ポジション、さらに日露間の北方領土問題にどのような影響をもたらすのか等々、中長期的には様々な分析・検討が行われなければならないでしょう。(おわり)

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