e-論壇「百花斉放」 e-論壇「百花斉放」 公益財団法人 日本国際フォーラム 公益財団法人 日本国際フォーラム
 「百花斉放」へようこそ。投稿へのコメントでないご意見は「新規投稿する」ボタンをクリックして投稿してください。
 なお、投稿記事を他所において引用、転載する場合は、その記事の出所が当e-論壇であることを明記してください。

投稿日で検索  //// 
キーワードで検索   
※キーワードはスペースで区切って複数の言葉を入力できます。
  <<前の20件 | 最新|次の20件>>  [ スレッド一覧 | *タイトル一覧 | 投稿一覧]
憲法9条解釈論における「正義」への無関心について   
投稿者:篠田 英朗 (東京都・男性・東京外国語大学大学院教授・40-49歳) [投稿履歴]
投稿日時:2017-05-17 13:11 [修正][削除]
>>>この投稿にコメントする
No.3873
 過去70年間、日本人は、憲法9条の平和主義を語り続けてきた。しかし、憲法の目指す平和が「正義と秩序を基調とする国際平和」であることには、だれも十分な注意を払ってこなかった。「平和」、「平和」、「平和」と繰り返すだけで、「正義」や「国際」に注意を払おうという試みは、70年間をつうじて殆ど行われてこなかった。憲法前文においても、「平和を愛する諸国民の公正と信義に信頼して、われらの安全と生存を保持しようと決意した」という文章がある。芦部信喜は、この前文の一句について、「国際的に中立の立場からの平和外交」に関する文章だという解説を施しているが(『憲法』[新版・補訂版]56頁)、どうしてそうなるのか、全くよくわからない。前文における「公正」は、英文では「justice」である。「justice and faith of the peace-loving peoples of the world」である。9条における「正義」も「justice」となる。英文では「Aspiring sincerely to an international peace based on justice and order」だ。ちなみに、9条1項冒頭の目的宣明は、2項冒頭の有名な「芦田修正」と同様に、日本の国会議員からなる帝国憲法改正小委員会で挿入された。いずれにせよ、その趣旨は、GHQ草案の時点から存在していた前文の文章と連動している。

 「Justice」というのは、正しい状態や行為を指す言葉で、中立的な外交を指す言葉ではない。9条に「正義」を入れるのであれば、前文もまた、「平和を愛する諸国民の正義と信念を信頼して」となるべきだったはずだ。「押しつけ憲法論を振りかざす日米安保容認の改憲論者を許すな!」と叫び続けてきた憲法学者たちは、アメリカ政治思想に根差した日本国憲法を、素直に読もうとしてこなかった。「Justice」という言葉は、アメリカ合衆国憲法の前文に登場する。「正義(justice)の確立」は、アメリカ人民が合衆国憲法を制定した「目的」の一つとして、あげているものだ。共通防衛で国内の平穏を保障して自由を守りながら、「正義の確立」を目指すと、合衆国憲法は宣言している。アメリカが正義の確立を目指していることを十分に知りながら、あるいは知っているからこそ意図的に、「正義」について語るのを回避しようとするのは、少なくとも憲法典に即した態度ではない。「正義」を無視しても「平和」であればいい、「一国主義」であっても「平和」であればいい、といった態度は、日本国憲法が排除することを宣言している非立憲的な態度である。

 本来、日本国憲法の平和は、常に「正義」に裏付けられた平和であり、その「正義」は「国際」的に認められているはずの「正義」である。日本国憲法の「平和」を、「正義」と「国際」から切り離して解釈するのは、本来の趣旨からすれば、間違いである。さらに言えば、英語の「justice」が、「司法」も意味する語であることは、言うまでもない。たとえば「正義と秩序(justice and order)」という言い方をした際、それは「法と秩序(law and order)」とかかわる含意もあるように受け止めるのが、当然だろう。前文において「平和を愛する諸国民の正義(justice)と信念を信頼」するという場合には、そこに「国際的な法秩序を信頼する」という含意があることは、当然だ。ちなみに「平和を愛する諸国」という概念は、国連憲章においては加盟国を指す際に使われている。

 9条においてもやはり、「正義と秩序を基調とする国際平和」とは「国際的な法秩序にのっとった平和」と解するべきである。重要な点である。強調したい。9条の目的は、国際法に従った平和の達成である。「戦争放棄」や「戦力不保持」は、目的達成のための手段であり、その逆ではない。 手段から目的に至る道筋には、国際法が案内人として立つ。戦争放棄や戦力不保持を独善的に定義して振りかざしたうえで、国際法にしたがった平和の妥当性を審査しようとするのは、反憲法的態度であり、反立憲的である。一部の憲法学者による、「憲法優位説により国際法を拒絶できる」、「憲法の平和主義で国際法を正すべきだ」、といった態度は、日本国憲法の本旨に反した非立憲的なものだと言わざるを得ない。

No タイトル 投稿者 日時
3922 (連載2)トランプ大統領は外交から手を引くべきだ ←  (連載1)トランプ大統 河村 洋 2017-07-22 10:53
3921 (連載1)トランプ大統領は外交から手を引くべきだ 河村 洋 2017-07-21 18:05
3920  トランプ、極東“金縛りの構図”に打つ手なし 杉浦 正章 2017-07-21 04:36
3919 トランプ政権発足6か月を経て 四方 立夫 2017-07-19 10:34
3918 安倍の安易な妥協は保守票まで失う 杉浦 正章 2017-07-19 05:09
3917 パリ協定と今夏の日本の豪雨禍 船田 元 2017-07-17 14:24
3916 自民に「大型倒閣議連」は出来まい 杉浦 正章 2017-07-14 04:35
3915 日欧の戦略的合意が世界をリードする 鍋嶋 敬三 2017-07-13 10:28
3914 記者会見記録に記者の所属・氏名を公開せよ 萩原 孝夫 2017-07-13 09:52
3913 「行政のゆがみ」はむしろ岩盤規制を放置した側に 杉浦 正章 2017-07-11 05:35
3912 得点挙げた「安倍鳥瞰図」外交 杉浦 正章 2017-07-10 04:59
3911 第一歩から躓いた共同経済活動 袴田 茂樹 2017-07-09 02:14
3910 ISの終焉か? 船田 元 2017-07-06 12:41
3909 都議選大勝で、小池は国政進出を狙う 杉浦 正章 2017-07-05 05:13
3908 北朝鮮核問題:政府は国民に真実を伝えよ 山崎 正晴 2017-07-03 14:45
3907 地方選の政局影響は限定的 杉浦 正章 2017-07-03 06:10
3906 「日・ASEAN対話」に出席して 池尾 愛子 2017-07-01 10:48
3905 国民投票の難しさ 船田 元 2017-06-30 10:32
3904 安倍は早期改造で局面転換を図れ 杉浦 正章 2017-06-29 06:20
3903 「木に竹を接ぐ」マスコミの都議選認識 杉浦 正章 2017-06-27 05:33

  <<前の20件 | 最新|次の20件>>  [ スレッド一覧 | *タイトル一覧 | 投稿一覧]