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トランプ大統領就任とロシアの反応   
投稿者:袴田 茂樹 (神奈川県・男性・日本国際フォーラム評議員・70-79歳) [投稿履歴]
投稿日時:2017-02-05 01:50 [修正][削除]
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No.3794
 1月20日(日本時間1月21日早朝)米国でトランプ大統領の就任式が行われ、彼の就任演説が世界で注目された。就任演説で著者が最も関心を向けたのは、次の言葉であった。「何年もの間、私たちは米国の産業を犠牲にして外国の産業を豊かにしてきました。他国の軍は支援してきたが、自国軍の悲しむべき疲弊は黙認してきたのです。他国の国境は防備しながら、私たち自身の国境を守ることを拒んできました。そして米国のインフラは荒廃し、悪化する一方で、何兆ドルも海外に投入してきました。私たちは他国を裕福にしながら、私たちの国の富や強さ、自信は地平線の彼方に消え去りました」。このトランプ演説を貫いているのは、世界を敵視するような強烈な被害者意識だ。彼の対日観も、1980年代の「日米経済戦争」の時代のままである。

 では、ロシアはトランプ政権の成立をどう見ているだろうか。トランプ氏が大統領に当選した時も、またプーチン大統領と個人的に親しく、ロシアと共同でエネルギー開発に従事してきたエクソンモービル社のレックス・ティラーソンCEOが国務長官に指名された時も、ロシア議会では歓声が上がった。ちなみに、ティラーソンはロシアの国家友好勲章も受けている。トランプもテイラーソンも、ロシアとの関係強化の姿勢を出しているが、クリミア併合などの主権侵害といった問題には無関心だったため、ロシア側が歓迎したのも当然だ。ただ、プーチン氏やロシアの指導部が親露的なトランプ氏を重視し、今後の米露関係に期待を抱いているかと言えば、話は別である。ロシアの指導部の多くはリアリストである。彼らは従来の共和党主流派や民主党であればヒラリー・クリントンのようにロシアに厳しい立場の人物は、警戒はしてもリアリストとして内心は一目置くのである。(ちなみに、オバマ前大統領のように「話し合いよってほとんどの問題は解決できる」と主張するような人物は蔑視する)。逆に、トランプ氏のような国家主権などに関心のない、ビジネス感覚のプラグマチストは、利用し易い好都合な人物とは見るが、決して敬意を抱いているわけではない。

 ロシア指導部はトランプ氏を、G7の対露制裁網を破るのに好都合な人物として、当然最大限利用しようとするだろう。しかし、目先の利害で容易に立場を変えるプラグマチストのトランプ氏を信用はしていない。また、ロシアで事業を展開してきたティラーソン氏は、かつてはロシアによるクリミア併合を問題とせず、対露制裁にも反対していた。しかし1月11日の米上院における公聴会では、ロシアが米国にとって脅威であると述べるとともに、2016年の米大統領選の際にロシアが仕掛けたとされるサイバー攻撃への制裁措置を当面は維持すべきだと語った。エクソンモービルのCEOとしての立場やプーチン氏との個人的関係と国務長官としての立場は別だ、という意思表示である。さらにジェームズ・マティス元NATO変革連合軍最高司令官・元米中央軍司令官は、やはり公聴会で、同盟国と結束して中露の強硬な行動に抵抗する、との考えを強調した。

 当然のことながら、共和党主流の厳しい対露認識が今後トランプ政権の対露政策に反映する「危険性」も十分認識している。ロシア側はこのような動きや変化を注視しており、米国による終末高高度防衛ミサイル(THAAD)の韓国や日本への配備に神経を尖らせている。しかし、トランプ氏が日本や韓国から米軍を本当に撤退させるとは信じてはいない。トランプ氏は軍縮交渉と対露制裁の取引なども口にしているが、トランプ政権の対外政策に関しては、トランプ氏や共和党内の相矛盾する様々な側面のどの面がより強く出てくるか、ロシア側は何らかの行動を起こす前に、暫くは様子見となるだろう。

 安全保障とは別の問題であるが、トランプ氏の唱える政策は、ロシアにとって不都合な側面もある。それは、エネルギー政策である。トランプ政権のエネルギー政策は自前の積極的なエネルギー開発がポイントだ。国内の産業育成と雇用増大のためである。トランプ氏は、地球温暖化やそれを阻止するためのパリ協定などは問題とせず、もっぱら石油、ガス、石炭などの生産を積極化する姿勢を示している。もしそれを本気で実行すれば、多少上向いてきた国際的な油価の再下落を招き、これは露経済にとって打撃になる。つまり、トランプ政策はプーチン政権にとって打撃となる側面もあるのだ。石油輸出国機構(OPEC)は昨年11月末に減産を決めた。それまでの8年間は、OPEC各国の利害が調整できず、サウジアラビアは高油価でシェール石油・ガスの開発が進むことを警戒した。また近年はイラク核合意の成立(2015.7)による制裁緩和により、イランがエネルギー市場に復帰するのをサウジアラビアが嫌い、減産合意は成立しなかったのである。この状況下での、トランプ政権の「米国第一エネルギー計画(An America First Energy Plan)の登場である。トランプ氏はエネルギー価格引き上げをもたらす炭素系エネルギー税には全面的に反対し、シェール石油・ガス、石炭、原子力などのエネルギー生産を支持している。トランプ政権がエネルギー公約をどれだけ実行するか不明だが、ロシアにとっては相当大きな不安材料だ。

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